livingroom diary

愛されるアラカンをめざしてw

「舞踏会の手帖」Un carnet de bal (1937)


アメリカ映画だと思い込んでいたらフランス映画でした。
昔、友達が見て「なんか年取ったおばさんが手帳を頼りに昔の恋人たちに会って幻滅する話」と醒めた感想を述べていたのを覚えていて、そういう話か~と思ってました。


でも、その「おばさん」はその辺の女ではなく、30台で金持ちの夫を亡くしたばかりの未亡人。今はイタリアの高級リゾート地の豪邸に住んでいる「おばさん」クリスティーヌ(女優はマリー・ベル)。


豪奢な昔の映画は好きです。映画という娯楽に対して求める要素は人によって違うと思いますが、私は贅沢な体験がしたい。美男美女も良いし、豪邸もハリボテだとわかっていてもそれが良い。もちろん、物理的に「豪華」じゃなくても良いです。


葬儀の疲れでまどろむクリスティーヌ。
「大きな窓、シャンデリア、白い花のついたドレス…」
ワルツが脳内を流れ、豪邸の部屋に舞踏会の思い出が重なる。



A Dream Sequence from UN CARNET DE BAL
秘書から勧められた旅に気乗りしなかったクリスティーヌですが、手帖にサインした男たちの居場所がわかったと知らされて、行ってみる事になりました。


この舞踏会の「手帳」というものですが、この後見た「若草の頃」でも登場しました。集まりの最初で談笑している時に、女性が持っている手帳というか、折りたたんだカードに男性がサインし、ダンスパートナーの「予約」をするというシステムらしいです。「若草の頃」では、主人公の兄を振った「東部の女」を懲らしめるために、ダンスが下手なブサメンにサインを貰っておいて、それを「あなたの分よ」と渡す計略でした。


この映画のクリスティーヌは、大変モテたという設定で、男たちは我先にと彼女の手帳にサインをしたがったと話の中でも出て来ます。検索すると、年代モノ?の手帳が出て来ます。


社交界のお決まりだったみたいですね。「若草の頃」のパーティーは町内のイベントですが。


実際に男たちに会いに行くクリスティーヌ。最初の一人は亡くなっていて、男の母は息子がまだ生きていて、幸せな結婚をするのだという妄想に取り憑かれていました。


他にも、悪事に手を染めていた男、小さな教会で神父になっていた男、山のガイドになっていた男。町長になっていた男、怪しい医者になっていた男。

最後に生まれ故郷で美容師になっていた男と会った時、クリスティーヌと舞踏会の思い出話が出て、同じ会場で舞踏会があると知らされて行くと、当時の優雅な雰囲気はなく、にぎやかなバンドで思い思いに踊る大衆的な「舞踏会」に愕然。


自宅に帰ったクリスティーヌは、秘書から、最後の一人がすぐ近くに住んでいると知らされる。その男こそ、当時一番惹かれていた男だった。


訪れると、若い男が一人湖に面したベランダでうなだれていた。彼は息子で、父親は少し前に亡くなり、邸宅は人手に渡るのでここを去らなければならない、と言う。クリスティーヌは彼を引き取る事を決める。


文字面だけだと、日本人的な感覚では未練がましい話のように映ってしまいそうですが、大してフランス映画を見ていない私が、フランス映画を見るたびに思うのは「フランスの女って強いな…」です。


精神的に自立しているという感じ。感情も動くし存分に恋にも浸り、映画によっては非常に弱い立場だったりしても、毅然としていて、日本人的感覚なら泣き崩れるような場面でも、ニヒルに寂しく笑うだけです。この映画の主演のマリー・ベルの持ち味なのかもしれませんが。


割とほのぼのとした寂しさで話が展開しますが、闇医師のティエリーの場面が凄いです。
まず部屋が傾いてる。(↑の写真の真ん中下)


これは実際に「傾いた部屋」なのか、心情的な演出なのかわかりません。
でも、後で食事の場面になってもグラスや皿が傾いてなかったので、おそらく演出なんでしょうか。
ティエリーの片目はつぶれて見えないようで、その顔も気味が悪い(途中から眼帯してくれますけど)。


外ではクレーンか何か、重機が大きな窓の向こうで常に動いていて、すごい騒音が。嫉妬深くケチな妻との喧嘩も日常茶飯事らしい。そんな環境のせいか、ティエリーは精神を病んでいます。そんな役でもなければイケメンの俳優ですが、演技が怖い。


妻も、ただの悪女というわけでもなく、一応ティエリーの事が心配なのか、恥ずかしいと思っているのか。訪れたクリスティーヌに取り繕うとして、無理に笑顔を作り、なけなしの食事を振る舞うのが絶望的に悲しい。


最後に訪れた理容師のところで、自分の思い出の会場とは全くイメージが異なってがっかりするクリスティーヌですが、その会場で若い娘さんが目をキラキラさせているのを見て、自分もこんなだったのか…と思い知ったようです。


そこで「いや違う、本当はもっと素晴らしかった」とか思っても言わないところが大人。
実際はどうだったんでしょうね?白い花の優雅なドレスのイメージはそのままだったのか、あるいは美化されたものだったのか。


でも、最後に想い人の息子が舞踏会に行く時、初めてで緊張するでしょう、と言って終わるところに、結局実際と美化が入り混じったイメージだったのか、という事だと思います。
それに絵面のように本当は上流社会の貴族だったら、みんなもっと楽な仕事に就いてるよね…。時代も関係ありそうですね。


まあ、あれですよね。若いっていいな、ってやつ。
20年もすると皆地に足がついて、それぞれの環境で必死に生きていて、それはそれで偉いな、と思いました。
生き残った人で一番出世?した感じの町長になった男、メイドだった女と結婚式の日にクリスティーヌがやって来るのですが、そのメイドがこの人

権威的なふるまいをしても、「あっ悪い人じゃないな」って一発でわかるという。
メイドも負けてなくて、冒頭でさっそく夫婦喧嘩をするのですが、結局イチャイチャしてます。そんな彼でも、身内の事で悩みがあったりで、人生楽じゃないね。


それぞれを訪れるクリスティーヌも若かった事にしがみついてるわけでもないし、迎える男たちも紳士で、邪魔扱いもしない(彼女がモテた設定だからですけど)。犯罪者になったジョーが、クリスティーヌのことを「クリクリ」と愛称で呼んでて、言い方可愛い。


人生いろいろだなぁ、と思いつつ、クリスティーヌの豪華な暮らしぶりと、豪華なお衣装も楽しめるという贅沢な映画でした。