livingroom diary

愛されるアラカンをめざしてw

「バルカン超特急」The Lady Vanishes(1938) ※ネタバレ

NHKBSでこのところ、ヒッチコック映画が断続的に放映中。
割と昔の映画でしたが、後半ながら作業の手を思わず止めて見入ってしまいました。


舞台は架空の国バンドリカ。雪で閉ざされ、列車が発車出来なくなり、隣接するホテルでドタバタコメディの印象から始まり。
・クリケットの事しか頭にない英国人のおっさん二人
・アメリカの成金娘トリオ
・バンドリカで6年家庭教師をしていたという老女
・民族音楽の研究をしているクラリネット奏者 等々…


翌朝、アメリカ娘の一人・アイリスは婚約者が待つパリへ向かう列車に乗り込みます。ここまで、英国人二人が主役みたいに展開しているのですが、この二人は狂言回し的な役割で、最後までノンキなおじさんたちです。最初の宿で、アメリカ娘たちが「強いドル」に物を言わせて部屋でシャンパンを飲み、迷惑客を追い出すようにチップをはずんだりと気儘に過ごしている中、このおじさんたちはメイド部屋を提供されて、メイドが外出から帰って来ると一人用ベッドに二人で文句言いながら寝てたりします。


アイリスは宿でも隣の部屋だった、家庭教師の老女・フロイと列車でも仲良くなりますが、予約したランチの前にうたたねして、目が覚めるとフロイはいませんでした。それどころか、誰もフロイを知らないと言い、フロイと一緒にお茶を飲んだはずの食堂車でも、一人で来たと給仕に言われる始末。


一般車両で、ホテルの階上でクラリネットを吹いていたギルバートや、医師と名乗る紳士から興味を持たれ、フロイは実際にはいて、列車の中で行方不明になっているとしか思えないというアイリスと共に推理を始める…という話。


ネタバレすると、何もかもグルで仕込まれ、フロイはやはり拉致されていた事が発覚するが、列車は切り離され支線へ、フロイを狙っていた者たちとの銃撃戦という想像以上の超展開でした。優しいおばさんとしか見えなかったフロイはスパイで、列車から走って逃げ国境を越えようとする逞しさ。やだカッコイイ…


あとは、貨物車両で、フロイを拉致するのに加担したと思われる、イタリア人の魔術師と、ギルバートとアイリスが乱闘する場面で、手品で使う予定だったらしい鳩が乱舞したり、帽子からウサギが顔を出したりするのがなんとも可愛らしい。乱闘と言っても派手な殴り合いではなく、掴み合って倒れ、まごまごしているアイリスに「尻を蹴れ!後ろから耳を掴んで捻れ!」と叫ぶギルバート。真剣なのにどこかのん気な。


他にも、男爵夫人、患者に付き添う修道女、不倫旅行中の弁護士と愛人など癖の強い人が多数。その中で一番弱く善良に見えるフロイが実は戦争スパイだったという話で、わざと癖の強い人を配置している感じも。


ヒッチコックの映画はそんなわけで、最近あれこれ見ていたのですが、後年の評価が高すぎて、個人的には「いや、面白いけどさ、そんなか?」ってところでした。ヒッチコックが客を集められる監督として偉大過ぎて、起用される女優も名だたる美女ばかり、お相手俳優も釣り合うイケメンでなければならず…となると、そうそうトンデモナイ話には出来ないように思えます。ある意味予定調和的な。その点、割と初期の映画という事で、身構えることなく見られ、なのにあれこれ盛り込まれて楽しい映画でした。


あと、この時代の映画ってやたらBGMがないのが良いですね。不穏を煽るような効果音もなし。その分のん気に感じるかもしれませんが。


バンドリカというのは架空の国らしいのですが、そんなおとぎ話的な…と思っていましたが、どうもナチス?の手が及ぶ前、あるいは及んだ頃の欧州のどこか、という設定のようです。元が小説なので実際はどうなのか、わかりませんが、この頃の欧州が不穏な空気に包まれていて、主人公はアメリカ娘というところも、何か事情があるような、ないような。